異国の水は飲むな!


1993年。中古ジェットを購入したばかりの私と私の友人は、毎週末ともなると必ずジェットを持って出かけていた。

私のジェットはヤマハTZ700、友人のはカワサキXU650である。

2台とも定員2人のタンデム仕様である。

しかし、タンデムとはいえ、2台とも小型のスポーツタイプで、非常に安定が悪い。

そのため、2人乗るのは至難の技だ。

XUに至っては、一人で乗るのも難しい。

遠出をするには金もないし、早起きするのはおっくうであった我々は、近くの川でジェットを楽しむことにした。

江戸川である。

千葉県側のある場所から、ジェットが降ろせることを知っているのは、我々だけではなかった。

朝早くに八王子から来たというその人は、ジェットの上手な人だった。

私と同じTZ700を、私より自在に操り、江戸川を自由に走り回っていた。

ジェットの面白さは、ただ単に走ることだけではなく、多少無茶な走りをすることにある。

急に曲がってみたり、わざとジェットを横滑りさせてみたり。

地上のオートバイでそんなことをすれば、たちまち傷だらけで、悪くすれば死ぬ。

しかし、ジェットは下が水である。

落ちても傷を負うようなことはない。

ライフジャケット(救命胴衣)をつけているので、よほどのことがない限り溺れることもない。

遊んでいるうち、ジェットから放り出されるのが面白くて、ますます無茶をする。

八王子の人も、我々も、子供のようにはしゃぎ、放り出され、水をしこたま飲んだ。

次の週も八王子の人は来ていた。

走りがとても静かになっている。

どうかしたのかと尋ねてみた。

しこたま水を飲んだ次の日、下痢をして苦しんだそうだ。

江戸川の水はキレイとはいえない。

時折、犬やネコなどの死体も流れてくる。

上流では、工業排水や汚物も流していると聞いたことがある。

無理もない。

では、なぜ我々は大丈夫だったのだろう。

そう、生まれも育ちも葛飾の我々は、浄水しているとはいえ、産湯ですら江戸川の水だったのだ。

八王子の人は、何もこんなところまで来なくとも、多摩川でジェットをすればよかったのだ。

ちなみに、茨城の北浦でジェットをした私は、次の日しっかりと下痢をした。

異国の水は飲むな!

である。

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