未開の島

*注:ここで使われている写真はすべてイメージ写真である。

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暗い船室の丸い小窓の隙間から、絶えず潮水が流れ込んでくる。

ベットも毛布もぐっしょりと濡れていて、とても眠れる状態ではない。

南国の海上ではあるが、船内はエアコンが効いており、濡れた身体を容赦なく冷やす。

台風が近づいているのは知っていた。

しかし、出港したときは満月が海原を照らしていたはずだ。  

思いのほか早く海が時化てきている。

これから我々が向かおうとしている島は「アンタハン」。

ビーチリゾートで有名な、カイパン島の北に続く列島の一つである。

他に、タリバン、ゴガン、パーカン、ムーゲ等の島々が続く。

アンタハンに行くのは、これで2度目となる。

目的は未知のポイントでのダイビング。

本来はタリバンあたりに行く予定であった。

しかし海況の悪化が予測できたため、タリバンより近いアンタハンに進路を取ったのだ。

  

  

私がよく晴れ渡った日本を出発したのは、数日前のこと。

その後、北島メンバーは続々と出港地であるカイパン島に集結した。

職業は謎であるが、博識でメンバー最年長の相談役「塾頭」。

とある企業のやり手取締役である、40代後半の「カイチョー」。

フリーのビジュアルテクニシャン「仏様」。

某大病院の看護技術者で旅好きの紅一点「猫」。

カイパン島にあるダイビングサービスのオーナーで、このツアーの主催者である「オカシラ」。

そして私の6人が、今回のメンバーである。

出港の日の朝、メンバーはオカシラの指導のもと、レスキュー講習を受けた。

緊急事態に対応する施設は、アンタハンにはない。

すべて自己責任とチームワークによって問題を解決しなければならないのだ。

講習と細かい打ち合わせを済ませ、休息を取った我々の脳裏には、

昨年行った無人島、「アンタハン」での出来事が昨日のことのように思い起こされた。

照りつける太陽。穏やかな海。心地よい風。すばらしい海の生物との出会い。

早くもう一度あの感動を味わいたい。

そんなはやる心を落ち着かせ、我々は船の待つオハラ港へと向かった。

その船の名前は「かいよう」。

胃の痛くなるような名前だが、漢字で書けば「海洋」なのであろう。

「かいよう」は釣り舟で内装仕様はよくないが、性能は抜群である。

スピードはカイパン島屈指。魚探やGPSも装備されている。

船長のナニーさんも、カイパン島一番の知識と感の持ち主だ。

ナニーさんの息子のマイクとその友人もクルーとして参加。

そして、調理長兼副船長のニウラさん。

頼りになるクルー達との1年ぶりの再会を握手に乗せ、我々はオハラ港を後にした。

10月、満月の輝く、深夜の出発であった。

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