*注:ここで使われている写真はすべてイメージ写真である。
早朝5:00。
デッキが騒がしい。
昨夜は時化のための揺れと、窓から進入する潮水のおかげでろくに眠れなかった。
船室は大きく三つに分かれており、一つは後部デッキとガラス戸で仕切られた6畳ほどのメインリビング。
リビングから5,6段ほどの階段を降りるとすぐに2人用の寝室があり、その奥、操舵席の下あたりに広めの部屋がある。
その他に水洗のトイレがあるが、当然貴重な水は使えない。
私が寝ていたのは2人用船室の窓際だった。
奥の広い船室は、私が寝ていたところ同様、小窓から潮水が漏れてくるので誰も入ろうとはしない。
私の隣のベットで寝ていた仏様以外は、皆メインリビングで寝ていたようだ。
私は眠い眼を擦りながら船の後部デッキへ出た。
雄大かつ自然のままの島が目前にあった。
アンタハンである。
私は胸の高まりを覚えた。
デッキにはすでに全員が揃っていた。何かあったらしい。
見ると、島から一艘の小船が船外機のエンジン音もけたたましく、こちらに近づいてくる。
島の沿岸に集落が見える。
1年前は無人島であったのだが、暫く前から数十人の人たちが住み着いているということは知っていた。
出迎えてくれているのである。
ボートの男の一人がライフルを手にしている。ずいぶんと物騒な出迎えだ。
我々は事前に用意していた数本のウイスキーとタバコを渡した。
挨拶代わりである。
彼らはその挨拶を快く受けてくれ、2人の男が我々の船に乗り込んできた。
挨拶といえどもライフルを持っていては、あまりいい気持ちはしない。
2人のうちの一人はこの島の長であった。
挨拶のセレモニーが終わると、島の長は我々をちょっと変わったものがあるポイントまで案内してくれると言う。
噂に聞く「ブラックコーラルポイント」だ。
「ブラックコーラル」。黒珊瑚である。
装飾品の材料として、大変高価な物らしい。1本1千万円はくだらないそうだ。
島の長は、そのブラックコーラルが群生している場所まで連れて行ってくれるというのだ。
我々は朝食も取らずに、早速そこへ向かうことにした。