*注:ここで使われている写真はすべてイメージ写真である。

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船で移動するときは、必ず釣り竿を投げる。

いわゆるトローリングと言うやつで、前回来たときは、カツオやキハダマグロ、サワラなどが面白いように掛かった。

今回は海況が悪く、掛かりが悪い。

それでも、猫などはひつこく釣り糸をたらす。

 

切り立った崖に、点々と山羊の姿が見える。

この島には多く棲息するらしい。

ブラックコーラルから天狗岩への移動中に、船長のナニーさんがライフルを持ち出した。

崖の岩肌に向かって数発の銃声が響く。

上手くいかないようだ。

息子のマイクが後を引き継ぐ。

ガーン、ガーン、ガーン!

切り立った崖に銃声が木霊し、豆粒ほどに見える山羊の一頭が、ガラガラと音を立てて落ちていく。

揺れる船上からの狙撃は、銃の性能だけでは如何ともしがたい。

マイクの射撃の腕はたいした物であるといえる。

 

当然、獲物は撃ち取った者に所有権がある。

マイクは軍用銃を持った島の人たちと一緒に、上陸した。

撃ち取った山羊を取りに行ったのであろう。

その時、お土産のお返しか、島の人たちから椰子ガニの差し入れがあった。

日本でも南の地方では椰子ガニが採れるが、

この椰子ガニなるもの、名前に「カニ」とついているがどちらかと言うとヤドカリの仲間だ。

椰子の実を、はさみでちょん切ることができるほど力が強い。

島の人たちは、こいつを捕まえると自転車のタイヤチューブでグルグルっと巻き、動けなくしてしまう。

実に手馴れたものである。

そのグルグル巻きの椰子ガニを包丁でバラバラにし、鍋に突っ込み、昼食に備えた。

そうこうしている間に天狗岩に到着。

 

海に突き出た岩が天狗の鼻に見えるところから、塾頭がつけたポイント名だ。

天狗岩南にエントリー。今度は全員揃ってのダイビングだ。

潜水開始、11:30AM。

曇っているため光は少ないが、透明度は抜群だ。

入るとすぐにホワイトチップが近くに寄ってきた。

明るいうちにこれほど活発に動くサメではないのだが、

自分のテリトリーを荒らされたことで、我々に警告しているのだろう。

亀が我々の目前を通り過ぎる。

オカシラが、その亀を追いかける。

捕まえ損ねてつまらなそうにしているオカシラの視界に、エイが姿を見せる。

オカシラはエイの頭上から忍び寄り、額のあたりを押さえ込む。

見事御用である。

 

満足そうなオカシラを尻目に、私と仏様は昼飯の調達に余念がない。

我々の周りには先ほどのホワイトチップがうろついているが、気にかけない。

まずは、手ごろな大きさのシャコガイを探す。

すぐに見つかった。ここはシャコガイの多いポイントだ。

口を開けて餌を漁っているシャコガイのその口に、石を突っ込み閉じないようにしてしまう。

おもむろに、ナイフでシャコガイの貝柱を切り取り、着床している岩からはがす。

シャコガイはこの貝柱が美味い。

その新鮮な美味さは、都会で食べる帆立貝など目ではない。

結局終始ついて回っていたホワイトチップは、我々に警告以上の手を出すこともなく、我々は昼飯を片手にエキジット。

船に上がると椰子ガニが、いい具合に煮えていた。

自然を愛するダイバーも、腹は減るのである。

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